肥満と生理不順の原因は「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」かもしれません

肥満と生理不順の原因は「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」かもしれません

生理不順や不妊の原因となる多囊胞性卵巣症候群(polycystic ‌ovary ‌syndrome:PCOS)は、肥満の原因となることがわかっています。妊娠可能年齢の女性の5~8%に発症する病気で※1、その原因はまだはっきりとわかっていません。「初潮が来てからずっと生理不順がある」「BMIが25を超えている」という人は、将来の不妊やがんのリスクに備え、放置せずに婦人科を受診しましょう。

「多囊胞性卵巣症候群(PCOS)」の原因と症状

卵巣が正常に機能している場合、卵巣では28~32日周期で卵胞が成長し、排卵が起こります。しかし、PCOSの人の場合、卵胞の発育に時間がかかり、未成熟な卵胞が卵巣に溜まってしまいます。

 

成熟していない小さな卵胞のことを嚢胞(のうほう)といい、PCOSの人の卵巣を超音波検査装置で調べると、嚢胞が卵巣のなかでリング状に並んで見える「ネックレスサイン」が見られるのが特徴です。生理周期などの異常があり、小さな卵胞が10個以上ある人で、血液中の男性ホルモンの値が高いなどの基準を満たすと、PCOSと診断されます。

 

PCOSの症状は、排卵障害によって生理がなかったり、生理が不順になったり、不妊のほかに、男性ホルモンの影響で毛深くなったり、ニキビができたり、肥満や糖尿病になりやすいといったことが知られています。また、子宮体がんなど、ライフステージに応じたさまざまな病気のリスクとなります。

体質改善による肥満の解消が多囊胞性卵巣症候群(PCOS)治療の第一歩

PCOSでBMI25kg/m2以上の人は、将来子どもを持つことを希望するか否かにかかわらず、減量に取り組むことが重要です。

 

肥満があると、インスリンというホルモンの作用が得られにくくなり、PCOSの治療に使われる排卵を促す薬の効果が下がるといわれています。インスリンは食後に血糖値を下げる働きがあり、インスリンの効きが悪くなる(インスリン抵抗性)と、血糖値が高い状態が続いて糖尿病を発症するリスクが高くなります。そのほか、PCOSの人は、心筋梗塞や脳卒中、精神疾患などのリスクが高いことが知られています。

PCOSの人のダイエットは長続きしない?

PCOSの人は、消化管ホルモンの分泌異常があり、長期にわたっての食事制限が難しいと考えられています。日常的な運動と低カロリー食品などを利用して減量に取り組みましょう。

 

PCOSの人向けの運動で明確な基準となるものはありませんが、生活習慣病の予防につながる運動では、頻度と強度、持続時間、運動の種類の4つがポイントといわれています。有酸素運動を行うことで筋肉への血流が増えると、ブドウ糖が細胞のなかに取り込まれてインスリンの効果が高くなりますし、筋肉が増えることでその効率もよくなることが期待できます。ウォーキングとスクワットなど、有酸素運動と筋肉トレーニングを組み合わせて実践しましょう。

筋肉トレーニングの一例(初級者用)

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※2 健康・体力づくり事業財団:筋力トレーニングメニュー(初級編)を参考に作成


このような自分の体重を使う筋肉トレーニングでもやり方次第で十分効果が期待できます。数多く行うことも大事ですが、きついと思うところまでしっかり曲げる、伸ばすことを意識すると強度が増します。減量は、2~6カ月で体重の5~10%程度でも、排卵が再開したり、インスリン抵抗性の改善などが期待できます。

 

PCOSの人は肥満になりやすいため、一時的な減量だけでなく、継続して適正体重を維持することが大切です。肥満を解消することで自然に排卵が起こるようになれば、薬による治療が不要になる可能性もあります。

多囊胞性卵巣症候群(PCOS)は放置せず婦人科を受診して

PCOSは、減量を含めたライフスタイルの改善が治療の第一歩です。肥満につながる生活習慣を見直しましょう。肥満の解消には、食事と運動の両輪が基本ですが、規則正しい生活を送ったり、睡眠をしっかりとったりすることも重要です。ストレスが溜まると食欲が増すホルモンの分泌が増えるといわれているため、自分なりのストレス解消法を見つけることも大切です。

PCOSの治療とは

薬などによる治療では、妊娠の希望の有無によって選択肢が異なります。妊娠を希望しない場合は、生理不順や不正出血などに対して漢方薬や低用量ピルなどのホルモン療法による治療を行います。

 

妊娠を希望する場合には、ホルモン療法が基本で、妊娠を目指す際には、排卵誘発剤を使います。なかには排卵しやすくするための手術を行うケースもあります。

生理不順は放置せずに婦人科へ

PCOSは、初経のころから生理不順がみられるケースが多いものの、なかには生理不順があっても「そのうち改善するだろう」と思って放置してしまったり、「妊娠や出産を考える時期になったら相談に行こう」などと考え、その年齢になってから不妊に悩み、受診して診断されるケースもあります。

 

生理周期には多少の個人差もあり、初経から2〜3年は生理周期が安定しないこともありますが、それ以降も生理不順が続く場合は、病気が隠れている可能性があると考えましょう。

 

PCOSと診断されても、生活習慣の改善による減量で自然排卵がみられたり、生理不順が改善したりする可能性があります。また、PCOSはニキビや多毛などの症状がみられることがあります。こうした症状も治療によって改善するケースがあります。また、PCOSの治療で継続的に婦人科を受診することで、将来の妊娠、出産に備えることもできます。

 

PCOSは放置してしまうと将来の不妊につながるリスクが高いだけでなく、無排卵が続くことで女性ホルモンのエストロゲンが子宮を刺激し、子宮体がんのリスクが高くなることがわかっています。また、PCOSの人はそうでない人に比べて将来のメタボリックシンドロームのリスクが約2倍にものぼるといわれています※4

 

生理不順は、女性の身体の状態を見極める大きなサインだと考え、28〜32日周期で生理が来ない場合には、できるだけ早く婦人科で相談しましょう。

ここがポイント

  • 多囊胞性卵巣症候群(polycystic‌ ovary ‌syndrome:PCOS)は不妊の原因となる状態をいう
  • PCOSの人は、卵胞の発育に時間がかかり、未成熟な卵胞が卵巣に溜まってしまい、生理不順が起こる
  • PCOSの人は肥満や糖尿病、子宮体がんなど、将来の病気のリスクが高くなることがわかっている
  • 肥満がある場合には、減量することで自然排卵が起こることもある
  • PCOSの人は早い時期から生理不順になるため、早期に婦人科に相談することが重要

引用・参考資料


※1 日本内分泌学会:多嚢胞性卵巣症候群

http://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=75(2023年2月15日閲覧)

※2 健康・体力づくり事業財団:筋力トレーニングメニュー(初級編)を参考に作成

https://www.health-net.or.jp/tairyoku_up/undo/kinryoku/t02_02_02.html(2023年2月15日閲覧)

※3久保田俊郎ほか:報告「本邦における多嚢胞性卵巣症候群の治療法に関する治療指針作成のための小委員会」報告.日本産科婦人科学会雑誌,61(3):902-912,2009.

https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10721511_po_ART0009059340.pdf?contentNo=1&alternativeNo=(2023年2月15日閲覧)

※4 日本産科婦人科学会:Reason for your choice 産婦人科の“魅力” 女性医学の紹介

https://www.jsog.or.jp/to_medics/miryoku/miryoku24.html(2023年2月15日閲覧)


・日本産科婦人科学会,日本産科婦人科医会:産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2020

https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2020.pdf(2023年2月15日閲覧)

・国立国際医療研究センター糖尿病情報センター:治療のはなし

https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/040/index.html(2023年2月15日閲覧)

・堂地勉:第53回日本心身医学会総会ならびに学術講演会(鹿児島)教育講演 肥満の性機能に及ぼす影響.心身医学,53:640-645,2013.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/53/7/53_KJ00008721948/_pdf(2023年2月15日閲覧)

吉丸真澄(よしまる ますみ)

吉丸真澄
(よしまる ますみ)

吉丸女性ヘルスケアクリニック院長
https://yoshimaru-womens.com/
金沢大学医学部卒業後、国立病院機構東京医療センター、東京歯科大学市川総合病院に勤務。2012年に東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教に就任。2020年に吉丸女性ヘルスクリニックを開業。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医、日本抗加齢医学会認定抗加齢専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、NR・サプリメントアドバイザー