生理前のさまざまな症状「PMS(月経前症候群)」とは?
生理前になると腹痛や頭痛などの症状が出たり、イライラしたり眠れなくなったりと、さまざまな症状に悩む人は少なくありません。これらの生理開始前になると現れる症状をPMS(月経前症候群)といいます。
日本の合計特殊出生率は*、第一次ベビーブーム期に4.3人超、第二次ベビーブームにも2.1人台で推移していましたが、2020年には1.33と大幅に低下しています※1、2。「ひとりの女性が生涯に出産する子どもの数が減る」ということは、生涯における生理の回数の増加も意味しています。つまり、女性がPMSを経験する回数も増えるということでしょう。
*合計特殊出生率:ある期間(1年間)の出生状況に着目し、その年における各年齢(15~49歳)の女性の出生率を合計したもの。1人の女性がその年齢別出生率で一生の間に産むとした場合の子どもの数に相当する。
PMS(月経前症候群)の症状はいつから?
PMSは、生理前の3~10日間続く精神的、身体的な症状で※3、生理が始まると症状が軽減したり、消失したりするものです。症状が多彩なのが特徴で、主に次のようなものがあげられます。
PMSによる主な症状
精神神経症状 | 情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害、のぼせ、食欲不振・過食、めまい、倦怠感など |
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身体的症状 | 腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、おなかの張り、乳房の張りなど |
PMSの発症には、女性ホルモンの変動が深くかかわっているといわれています。生理周期は、生理が始まったところから排卵までの期間(卵胞期)と排卵から次の生理が来るまでの期間(黄体期)に大きくわけられます。PMSが起こるのは生理前の黄体期の後半です。
生理周期とホルモンバランス
黄体期には、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が盛んになりますが、それが生理開始前の後半には急激にエストロゲンとプロゲステロンの分泌が減少します。これにより、ホルモンの分泌をコントロールしている脳内のホルモンや神経伝達物質に異常が生じ、PMSのさまざまな症状が起こると考えられています。
脳内のホルモンや神経伝達物質の異常は、女性ホルモンの影響だけでなく、ストレスなども強く関与しているといわれています。そのため、生理周期に伴う女性ホルモンの変動に加えて、ストレスなどの要因もPMSの発症や症状の程度にかかわっていると考えられています。
生活が困難なほど強い症状が出ることも
日本では生理がある女性の約70~80%に生理前に何らかの症状がみられるといわれています※1。PMSの場合、症状の出方や程度の個人差が大きく、日常生活にとくに支障がない人もいれば、生活が困難になるほど強い症状に悩んでいる人もいます。生活に大きな影響を与えるほど強いPMSで悩んでいる女性は、5.4%程度といわれています※3。
生活に大きな影響がない場合でも、PMSがあることで学校や職場、家庭で毎月生理前になるとさまざまな症状を抱え、つらい思いをしている女性は少なくありません。自分の症状を理解して、生活習慣を見直すことでも症状が軽減する可能性があります。セルフケアで改善しない場合には、医師と相談し、適切な治療を受けることも大切です。
PMS(月経前症候群)が起こるタイミングをチェックしよう
生理前に「何となくイライラする」「悲しい気持ちになる」「勉強や仕事に集中できない」「頭痛がある」「顔や足がむくむ」など、気になる症状がある人は、PMSの可能性があります。
自分のPMSの症状を把握し、症状が出やすい時期を事前に予測するために、日々の心身の状態を記録してみましょう。毎朝基礎体温を測ることで、生理周期との関連が深いかどうかも確認でき、次の症状が出やすい時期も絞り込みやすくなります。生理2~3周期(約2~3か月)分記録すれば、自分のPMSのパターンを把握しやすくなります。
パターンを把握した後は、PMSの症状が出やすい時期に合わせてセルフケアを試してみましょう。自分のつらい症状がPMSによるものだと理解するだけでも気持ちが楽になる人もいますし、PMSが出る時期に大事な約束をしないなどの対策も可能です。
自分に合う治療でPMS(月経前症候群)のつらさを軽減
PMSは、その症状によって日常生活、社会生活に影響が及ぶ場合には治療の対象になります。カウンセリングや生活指導、運動療法で改善する場合もあれば、薬による治療が必要になることもあります。
生活リズムを整えてしっかり休息
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生活リズムの乱れは、ホルモンバランスの乱れにもつながります。“休日は平日より2時間以上多く眠る”という人は、平日の睡眠時間が不足しているといわれています。平日、休日問わずできるだけ同じ時間に起床し、夜更かしは控え、睡眠時間をしっかり確保しましょう。
朝は日の光を浴びることで体内時計がリセットされるといわれています。休日だからといって昼夜逆転の生活を送ってしまうと疲れが取れず、夜も眠れなくなって翌週を不調なまま迎えることになってしまいます。
食事は3食しっかりと
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食事もできるだけ毎日同じ時間にとることを心がけましょう。とくにカルシウムやマグネシウムは積極的にとるとよいでしょう。逆にカフェインやアルコールは控えめにした方がよいといわれています。
PMSが起こる時期は上手にストレス解消を
生理周期や症状を記録し、PMSのパターンがわかってきたら、次の生理周期からPMSが起こりやすい時期には意識的にリラックスできる時間をつくったり、気分転換をはかったりしましょう。マッサージやアロマテラピー、お風呂にゆっくりつかるなど、自分にとって心地よいと思えるものを取り入れながら、この時期を快適に乗り切るセルフケアの方法を探します。
運動でストレス解消
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運動は、身体を温め、呼吸を意識しながら行うウォーキングやヨガ、ストレッチなどを取り入れましょう。リラックス効果も期待できます。運動は就寝の3時間くらい前までに行うと、睡眠の質を高めます。逆に就寝直前に運動を行うと身体が興奮して寝つきが悪くなってしまうので注意しましょう※4。
生活に支障をきたす場合は薬による治療も
PMSは、排卵後の女性ホルモンの変動が原因のため、排卵を止めることで症状は軽減します。低用量経口避妊薬(低用量ピル)や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬で一時的に排卵を止めることができます。低用量経口避妊薬は、副作用も少なく、服用を止めれば排卵はすぐに回復し、将来の妊娠にも影響しません(PMSに対する経口避妊薬の処方は自費診療です)。
また、その人がつらいと感じている症状に対して薬を使うこともあります。痛みが強い場合には鎮痛薬、むくみが強いときには尿を増やす利尿薬などを使います。精神神経症状が強く日常生活に影響が及ぶ場合には、精神安定薬やSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などが有効なケースもあります。
そのほか、患者さんの症状や体質に合う漢方薬が処方されることもあります。PMSの患者さんに対して使われることが多い漢方薬に、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遙散、女神散、桃核承気湯、抑肝散などがあります。
つらいPMSは我慢せず、婦人科を受診しましょう。かかりつけの婦人科を持つことで女性のライフステージに応じた心身の不調についても相談ができます。また、薬による治療だけでなく食事、運動、セルフケアなどの方法についてのアドバイスも役立ちます。
ここがポイント!
- ・PMS(月経前症候群)は、生理前の3~10日間続く精神的、身体的な症状で、生理が始まると症状が軽減したり、消失したりする
- ・女性ホルモンの影響が原因と考えられているが、ストレスなども強く関与している
- ・基礎体温やPMSの症状を記録して症状が出やすい時期にセルフケアすることで軽減することもある
- ・生活習慣の見直しやセルフケアで症状が改善しない場合は婦人科に相談を
引用・参考資料
※1 令和2年(2020)人口動態統計 統計表第5表
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei20/dl/09_h5.pdf(2022年9月15日閲覧)
※2 令和4年版少子化社会対策白書全体版(PDF版)第1部第1章 出生数、出生率の推移
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2022/r04pdfhonpen/pdf/s1-2.pdf(2022年9月15日閲覧)
※3 日本産婦人科学会:月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)
https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=13(2022年9月15日閲覧)
※4 e-ヘルスネット 快眠と生活習慣
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-004.html(2022年9月15日閲覧)
日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドライン―― 一般科外来編2020
https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2020.pdf(2022年9月15日閲覧)
吉丸真澄
(よしまる ますみ)吉丸女性ヘルスケアクリニック院長
https://yoshimaru-womens.com/
金沢大学医学部卒業後、国立病院機構東京医療センター、東京歯科大学市川総合病院に勤務。2012年に東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教に就任。2020年に吉丸女性ヘルスクリニックを開業。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医、日本抗加齢医学会認定抗加齢専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、NR・サプリメントアドバイザー
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