パートナーとの関係が悪化するリスクも
月経前不快気分障害(PMDD)の原因と症状
女性の心身の状態は、ホルモンの影響を受けていることが多く、生理に関連して起こるさまざまな症状を月経随伴症状といいます。月経随伴症状には、生理前に症状が出る月経前症候群(PMS)、生理中に症状が出る月経困難症、月経前不快気分障害(PMDD)などがあり、これらの症状による社会経済的負担は年間6,828億円にものぼるという報告もあります※1。
生理前になると起こる月経前症候群(PMS)と月経前不快気分障害(PMDD)
女性ホルモンの変動などの影響で、生理前3~10日間に表れ、生理が始まると治まる精神的、身体的症状を月経前症候群(PMS:premenstrual syndrome)といいます。抑うつや不安、イライラなどの精神的症状および頭痛や腹部膨満感などの身体的症状のうち、生理前に1つ以上の症状がみられるのが特徴で、生殖年齢(妊娠や出産が可能な年代)女性の約70~80%※2に起こるともいわれているほど頻度が高いものです。症状の出方や強さは個人差が大きいものの、症状の程度にかかわらず何らかの身体的、精神的症状がみられる場合にはPMSとされます。
抑うつと同じ分類の「PMDD」
同じように生理前になると非常に強い精神的症状が現れるものが月経前不快気分障害(PMDD:premenstrual dysphoric disorder)です。症状が現れる時期はPMSと同じ生理前で、生理が始まると症状が改善しはじめます。PMSとの大きな違いは、症状が主に精神的症状であることと、その症状が非常に強い点で、以前は精神的症状が強いPMSの重症型として扱われることもありましたが、現在ではうつ病などと同じ抑うつ症候群の病気のひとつに分類されています。
PMDDの原因は?
PMDDの症状は、ホルモンの影響を受けて脳内の神経伝達物質であるセロトニンの濃度が低下することによって生じるという説をはじめ、複数の原因があげられていますが、まだはっきりとはわかっていません。
セロトニンにはドパミンやノルアドレナリンというほかの神経伝達物質からの情報をコントロールする働きがあります。ドパミンは喜びや快楽など、ノルアドレナリンは恐怖や驚きなどにかかわる神経伝達物質で、セロトニンがこのバランスを整え、精神を安定させる働きをしています。ホルモンの影響でセロトニンの濃度が低下すると、ドパミンやノルアドレナリンのコントロールが乱れ、攻撃的になったり、不安が強くなったりといった精神的症状が強く出てしまうのです。更年期に起こるさまざまな症状も、女性ホルモンの分泌量が減ることがセロトニンの濃度が低下する原因となって生じているということがわかってきました。
PMDDは婦人科と精神科どちらを受診すればよい?
生理開始前に強くなる精神的症状に悩んでいる場合、とくに次のAの症状のうち1つ以上あてはまるものがあり、Bの症状も1つ以上、かつAB合わせて5つ以上の症状がある場合にはPMDDの可能性も考えられます。
A |
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B |
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うつやパニック障害などの診断・治療を受けていない人で、これらの症状が生理開始前に表れ、生理が始まると症状がおさまってきたり、なくなったりするという人、またこれらの症状があることによって日常生活(活動)で困っていることがあるといった場合には、早めに婦人科もしくは精神科を受診しましょう。
子どもの虐待や離婚の原因になることも
PMDDによるさまざまな精神的症状は、その人自身がつらく、苦しいだけでなく、周囲との関係に大きな影響を与えてしまうことがあります。たとえば、怒りっぽくなって子どもやパートナーに暴力をふるったり、暴言を吐いてしまったりすることなどがあげられます。生理が始まって症状がおさまってくると、「なぜあんなことで怒ってしまったのだろう」と思うような些細なことでもイライラする気持ちがコントロールできないのです。
生理が始まって症状がおさまればとくに生活に支障はありませんが、生理周期が通常であれば毎月同じような状況になるため、パートナーが支えきれずに離れる選択をすることも決して珍しいことではありません。パートナーの理解を得ること自体のハードルが高いといえるでしょう。
また、仕事を続けていくことが難しくなったりして女性のキャリアにも大きな影響を与えることがあります。
PMDDは薬による治療と生活習慣の見直しを
PMDDは、早期に治療を開始することが重要です。まず、自分の精神的症状を記録しましょう。合わせて生理周期を記録することで医師の診断の助けになります。イライラしたり悲しくなったりする症状があるものの、生理との関連があるのかどうかがわかりにくいという場合は、記録を持ってかかりつけの婦人科医に相談するとよいでしょう。
日常生活では食事療法や規則正しい生活を送ること、エクササイズや鍼灸なども症状改善に効果があるとする報告があります。食事療法では、炭水化物やたんぱく質をしっかりとること、精製糖や塩分、カフェインを控えることがよいとされています※3。
また、リラックスできる時間をもつことも大切です。半身浴やアロマオイルの活用、ヨガ、深呼吸など、自分に合う方法をみつけていきましょう。
薬による治療では、SSRIと呼ばれるうつ治療に使われる薬や漢方薬などが使われます。また、保険適用外ですが、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤が合う人もいます。医師と相談しながらその人に合う治療法を一緒にみつけていくことが大切です。また、PMDDはパートナーをはじめ、周囲の人の理解が欠かせません。どんなときに精神的症状が起こりやすいのか、そのときはどのように対処すればよいのかなどを症状がないタイミングで話し合っておきましょう。
ここがポイント!
- ・女性の生理に関連して起こるさまざまな症状を月経随伴症状といい、月経前症候群(PMS)、月経困難症、月経前不快気分障害(PMDD)などがある
- ・PMDDは、生理前に非常に強い精神的症状が現れるもので、周囲との関係に影響が及ぶこともある
- ・自分の生理周期やその変化に伴う心身の症状を記録することが大切
- ・早期に受診し、薬による治療を受けるほか、リラックスできる時間を持ったり、規則正しい生活を送ることが重要
引用・参考資料
※1 Erika Tanaka, Mikiko Momoeda et al: Burden of menstrual symptoms in Japanese woman: results from a survey-based study. J Med Econ, vol.16, No11, 1255-1256,2013.
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.3111/13696998.2013.830974(2023年6月16日閲覧)
※2日本産科婦人科学会:産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020
https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2020.pdf(2023年6月16日閲覧)
※3 Nevatte T, O’Brien PM, Bäckström T, et al.:Consensus Group of the International Society for Premenstrual Disorders. ISPMD consensus on the management of premenstrual disorders. Arch Womens Ment Health. 16:279-291, 2013
・経済産業省:健康経営における女性の健康の取り組みについて
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/josei-kenkou.pdf(2023年6月16日閲覧)
・大坪天平:精神科からみたPMS/PMDDの病態と治療.女性心身医学,22(3):258-265,2018.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspog/22/3/22_258/_pdf/-char/ja(2023年6月16日閲覧)
・e-ヘルスネット:健康用語辞典 休養・こころの健康 セロトニン
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-074.html(2023年6月16日閲覧)
・日本産科婦人科学会:月経前症候群
https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=13(2023年6月16日閲覧)
吉丸真澄
(よしまる ますみ)
吉丸女性ヘルスケアクリニック院長
https://yoshimaru-womens.com/
金沢大学医学部卒業後、国立病院機構東京医療センター、東京歯科大学市川総合病院に勤務。2012年に東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教に就任。2020年に吉丸女性ヘルスクリニックを開業。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医、日本抗加齢医学会認定抗加齢専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、NR・サプリメントアドバイザー