知っておきたい乳がん治療──早期発見で手術の選択肢も広がる
2022.02.10

知っておきたい乳がん治療──早期発見で手術の選択肢も広がる

2018年の国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)によれば、1年間で新たに乳がんと診断された人は93,858人と、10万人近くにのぼっています※1。一方で乳がんは、早期発見ができれば治る可能性が高いがんのひとつです。

その早期発見のポイントと、治療方法について正しい知識を身につけることが、もしもの場合の備えとなります。

ブレスト・アウェアネスを身につけよう

女性が自分自身の乳房の状態に関心を持ち、乳房を意識して生活することを「ブレスト(乳房)・アウェアネス(意識)」といいます。これは近年、世界中で提唱されているもので、乳がんの早期発見において非常に重要なポイントとなるものです。

「ブレスト・アウェアネス」は、次の4項目を実践することをいいます※2

  • 自分の乳房の状態を知るために、日ごろから自分の乳房を見て、触って、感じる(乳房のセルフチェック)
  • 気をつけなければいけない乳房の変化を知る(しこりや血性の乳頭分泌など)
  • 乳房の変化を自覚したら、すぐに医療機関へ行く
  • 40歳になったら定期的に乳がん検診を受診する

このなかで重要なのは、変化を感じたらすぐに病院で検査を受けること、さらに定期的に乳がん検診を受けることも、「ブレスト・アウェアネス」に含まれている点です。

 

乳がんは自分で見つけることが可能な数少ないがんといわれますが、日々のセルフチェックや自覚症状だけでは早期発見はむずかしいといえます。40歳をすぎたら定期的に乳がん検診を受けましょう。また、乳がん検診で「異常なし」と判定された場合でも、「ブレスト・アウェアネス」を継続することが、早期発見につながります。 

乳がんのステージ(病期)と治療法

検診などで乳がんの可能性が疑われた場合、問診、視触診、マンモグラフィ検査、超音波検査などを行い、必要に応じてCTや細胞診、組織診などを行います。マンモグラフィ検査と超音波検査を両方とも行うのは、各検査で見つけやすいもの、見つけにくいものが異なり、どちらかでしか発見できないがんを見落とさないためです。

 

細胞診や組織診は、がんがあるとみられる乳房に直接針を刺して組織(細胞)をとって詳しく調べるもので、これによってがん細胞の有無やがんのタイプなどがわかります。細胞をとって調べるものを細胞診、細胞の集まりである組織をとって調べるものを組織診といいます。

 

そのほか、CTや骨シンチグラフィなどの画像検査は、病気の進行度を調べるために行います。

乳がんのステージ

乳がんは、がんの状態によって各ステージに分類されます※3

0期 非浸潤がん、あるいはパジェット病で、きわめて早期のがん
Ⅰ期 がんの大きさが2cm以下で、リンパ節やほかの臓器に転移していない
ⅡA期 がんの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節に転移し、そのリンパ節は固定されておらず動く、もしくはがんが2cmを超え、5cm以下の大きさでリンパ節やほかの臓器への転移はない
ⅡB期 がんが2cmを超え、5cm以下の大きさで、わきの下のリンパ節に転移し、そのリンパ節は固定されておらず動く、もしくはがんが5cmの大きさを超え、リンパ節やほかの臓器への転移はない
ⅢA期 がんの大きさが5cm以下で、わきの下のリンパ節に転移し、そのリンパ節は固定されて動かないか、リンパ節が互いに癒着している、または、わきの下のリンパ節には転移がないが、胸骨の内側のリンパ節に転移がある
もしくは、しこりの大きさが5cm以上で、わきの下または胸骨の内側のリンパ節に転移がある
ⅢB期 がんの大きさやリンパ節への転移の有無にかかわらず、しこりが胸壁に固定されていたり、がんが皮膚に出たり皮膚が崩れたり皮膚がむくんでいるような状態(しこりがない炎症性乳がんは、このステージから含む)
ⅢC期 がんの大きさにかかわらず、わきの下のリンパ節と胸骨の内側のリンパ節の両方に転移がある、または鎖骨の上下にあるリンパ節に転移がある
Ⅳ期 ほかの離れた臓器への転移(骨、肺、肝臓、脳などへの遠隔転移)がある
  • ※非浸潤がん:がん細胞が乳管や乳腺小葉のなかにとどまっている乳がん
  • ※パジェット病:乳頭や乳輪の表皮内にがん細胞がみられ、乳頭や乳輪が赤くなり、湿疹のような状態になるもの

(日本乳癌学会編:臨床・病理 乳癌取扱い規約 第18版(2018年)より作成)

乳がんの治療

乳がん治療は、がんのタイプや進行度によってどんな治療の選択肢があるのかが医師から提示されます。そのなかから自分の生活や希望などをふまえて医師と相談しながら治療法を選択します。ほかの医師の意見を参考にしたい場合には、セカンド・オピニオンを受けることもできます。

 

乳がんの治療法は、乳がんのステージやタイプ、患者さんの状態などによって選択肢が異なります。手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせるのが一般的で、これまでの治療成績、臨床試験などの結果から、多くの乳がんの専門医が検討を重ね、その組み合わせを確立した治療(標準治療)が基本となります。ただし、その標準治療がすべての患者さんにとって最善とは限りません。まずは医師から提示された治療を理解したうえで、自分の希望と合わせて医師とともに考えていきましょう。

乳がん治療の流れ

乳がんの治療は、手術の後に放射線治療や薬物療法、またはその両方を行うケースや、手術の前に薬物療法でがんを小さくしてから手術を行う場合、その後に放射線治療を行うなど、患者さんのがんの大きさ、範囲など、さまざまな状況をふまえて治療法を選択します。

 

【乳がんの初期治療(乳がんと診断されて最初に受ける治療)】
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手術では乳房を温存できるかどうか、したいのかどうか、温存しない(できない)場合には、乳房再建を希望するのかどうかを事前に医師と十分に相談しておくことが大切です。がんといわれたときにはパニックになってしまう人もいますが、最近ではがんの専門知識を持つ看護師が術後の生活などの相談を受ける専門外来が増えています。また、患者会などに参加して乳がん体験者の話を聞くことで参考にできることもあります。

 

がん治療については、さまざまな情報が入手できるようになっています。まずは自分のステージの標準治療を理解し、そのうえで治療後の生活をふまえた治療法を納得したうえで選択することが大切です。

ここがポイント

  • 年間で乳がんと診断される人は約10万人にのぼる
  • 女性が自分自身の乳房の状態に関心を持ち、乳房を意識して生活する「ブレスト(乳房)・アウェアネス(意識、気づき)」を身につけよう
  • 乳がんの治療は手術などの局所治療と、薬物療法による全身治療を組み合わせる
  • 乳房温存や乳房再建を希望するかどうか、医師とよく相談を

 

引用・参考資料


※1 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)

https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/14_breast.html(2022年1月14日閲覧)

 

    ※2 日本乳癌学会編:2019年度版患者さんのための乳がん診療ガイドライン

https://jbcs.xsrv.jp/guidline/p2019/guidline/(2022年1月14日閲覧)

 

※3 日本乳癌学会編:臨床・病理 乳癌取扱い規約 第18版(2018年)

 

日本医師会ホームページ:知っておきたいがん検診

https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/type/breast/what/(2022年1月14日閲覧)

山内英子監修:乳がんのことがよくわかる本.講談社,2018.

髙橋かおる:乳腺専門医がわかりやすく解説 乳がんの本.アストラハウス,2021.

山内英子:乳がん(よくわかるがん治療).主婦の友,2020.

吉丸真澄(よしまる ますみ)

吉丸真澄
(よしまる ますみ)

吉丸女性ヘルスケアクリニック院長
https://yoshimaru-womens.com/
金沢大学医学部卒業後、国立病院機構東京医療センター、東京歯科大学市川総合病院に勤務。2012年に東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教に就任。2020年に吉丸女性ヘルスクリニックを開業。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医、日本抗加齢医学会認定抗加齢専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、NR・サプリメントアドバイザー