乳がん治療を受ける前に考える「乳房再建」という選択
2022.03.25

乳がん治療を受ける前に考える「乳房再建」という選択

乳がんの手術は、乳房を失うことによる不自由さを伴うこともあります。患者さんのがんの状態によって乳房の一部を取り除く乳房温存手術も可能ですが、もうひとつの選択肢として、乳房をすべて切除した後に再建する方法もあります。これらの手術法と再建術のメリットとデメリット、費用、術後の生活面での注意点などを紹介します。

乳房再建を前提とした乳がんの手術を希望するなら

乳がんは、ステージ(病期)に限らず、手術後に放射線治療や薬物療法を行う、薬物療法でがんを小さくしてから手術を行うなど、可能な限りは手術でがんを取り除くのが治療の基本的な考え方です。

ステージ0、Ⅰ、Ⅱ期の乳がんでは、手術でがんを取り除く場合でも、その後の放射線治療を行うことで乳房を温存できる可能性があります。これは、乳房の一部切除後に放射線治療を行った場合と、乳房すべてを切除した場合での治療成績が同じであることが明らかになったためです。

医師から「乳房温存が可能」という選択肢が提示された場合には、温存できる範囲や手術後の乳房の見た目などを聞いたうえで、温存したいかどうかを医師に伝えましょう。実際に、乳がん手術は乳房全切除術に比べ、乳房温存手術を選ぶ人の割合が増えています※1


乳がん手術の種類

乳房部分切除術+放射線療法(乳房温存術) 乳房全切除術 乳房切除術+乳房再建
生存率 ほぼ変化なし
外見の変化 少し変わる 大きく変わる 少し変わる
医療費(3割負担) 20〜30万円 25万円前後 60万円〜

※施設によって異なる。高額療養費制度を利用した場合、上記費用の実質的な負担額は8〜10万円(差額ベッド代などは別)

身体の組織の一部と人工乳房での再建のメリット・デメリット

乳房温存療法に対して、乳房をすべて切除した後に失われた乳房を形成外科的な手術によって再建する方法もあります。乳房を失うことは、見た目の問題だけでなく、精神的な負担になることがあり、乳房再建は、その負担を軽減する選択肢のひとつです。ただし、乳房再建を選択する場合、次の点について検討する必要があります。

①乳房再建のタイミング

乳房再建手術は、乳がんの切除手術と同時に行う一次再建と、乳がんの切除手術後に期間を開けて再建のために手術を行う二次再建があります。

一次再建の場合は手術回数が少なく済みますが、手術時間や入院期間が長くなる可能性があります。二次再建は乳がんの治療と分けて考えることができるので、落ち着いて考えられますが、乳房の喪失感があることに加え、再度入院や手術の必要があります。

②どのように再建するのか

乳房再建は、大きく分けて次の2つの方法があります。それぞれ方法とメリット・デメリットがあるため、十分に検討しましょう。

患者さんの身体の組織の一部を移植する乳房再建

①おなかの組織を使う方法

おなかの脂肪、血管だけを移植して乳房をつくる穿通枝皮弁法(図)と、おなかの皮膚や脂肪、血管がついたままの筋肉を胸に移植して乳房をつくる腹直筋皮弁法があります。

図:穿通枝皮弁法

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イラスト提供:国立がん研究センター東病院 形成外科



②背中の組織を使う方法

背中の皮膚、脂肪、血管がついたままの筋肉を胸に移植する広背筋皮弁法という方法です。



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イラスト提供:国立がん研究センター東病院 形成外科



人工乳房(インプラント)による乳房再建

シリコンでできた人工乳房を入れることで乳房を再建します。

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イラスト提供:国立がん研究センター東病院 形成外科



再建方法(患者さんの身体の組織の一部を移植する方法と人工乳房による方法)

  患者さんの身体の組織の一部を移植する乳房再建 人工乳房(インプラント)による乳房再建
方法 自分のおなかや背中の組織を移植する シリコン製の人工乳房を挿入する
メリット 手触りやかたさ、形など乳房が比較的自然 形やサイズなどが不自然になりやすい
感染や破損リスクがある
デメリット 手術時間や入院期間が長く、組織を取った場所(おなかや背中)に傷ができる。おなかの手術を受けたことがある人や将来妊娠、出産を考える人には適していない 手術時間や入院期間が短く、身体のほかの部分に傷をつくらない

このほか、保険適用外で脂肪注入を行う方法もあります。小さな乳房の再建や凹凸の修正などに適しているといわれていますが、注入した脂肪が石灰化して乳がんとの判別がしにくいなどのデメリットがあります。

乳がんの手術と乳房再建は別の医師が執刀することが多いため、再建を考える場合は両方の担当医と相談のうえ、タイミングや方法を検討しましょう。

乳がん手術後も気兼ねなく温泉などを楽しみたい

乳がん再建後の生活でとくに制限はありませんが、肥満や喫煙などを避けるなど、再発予防に努めましょう。

乳房を手術したために活動を控える人もいますが、手術後の傷を保護し、衝撃から胸を守ってくれる専用の下着やパッドなどが販売されていますので、上手に利用してアクティブな生活を楽しみましょう。また、着用したまま湯船に入れる入浴着や、肌に貼りつけるタイプの人工乳房なども開発されており、人目が気になる温泉などの場でのみ使用する人もいます。

乳房再建は、2013年に保険適用となったことで、希望する患者さんが増えました。しかし、メリットだけでなく、デメリットもあります。また、「乳房再建はしない」という選択をする人もいます。いずれにしても治療後の生活や、合併症のリスクなどをふまえて納得いく選択をすることが大切です。

ここがポイント

  • 乳がんの手術で乳房を失った場合の選択肢として乳房再建がある
  • 乳房再建には一次再建、二次再建があり、自分の組織やシリコン製の人工乳房を使う方法がある
  • 乳房再建の意思は乳がん治療を開始する前に伝える
  • 乳房再建のタイミングや再建方法のメリット・デメリットをよく検討し、納得したうえで治療にのぞむことが大切
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引用・参考資料


※1  Junichi Kurebayashi et al: Clinicopathological characteristics of breast cancer and trends in the management of breast cancer patients in Japan: Based on the Breast Cancer Registry of the Japanese Breast Cancer Society between 2004 and 2011. Breast Cancer volume 22, p235–244, 2015.

国立がんセンター東病院:乳房再建術について

https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/plastic_surgery/ps/02.html(2022年1月14日閲覧)

日本形成外科学会:乳がん術後の乳房再建概要

https://jsprs.or.jp/general/disease/shuyo/nyugan_jutsugo/gaiyo.html(2022年1月14日閲覧)

日本乳癌学会:患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版

https://jbcs.xsrv.jp/guidline/p2019/guidline/g4/q27/(2022年1月14日閲覧)

山内英子監修:乳がんのことがよくわかる本.講談社,2018.

髙橋かおる:乳腺専門医がわかりやすく解説 乳がんの本.アストラハウス,2021.

山内英子:乳がん(よくわかるがん治療).主婦の友,2020.

吉丸真澄(よしまる ますみ)

吉丸真澄
(よしまる ますみ)

吉丸女性ヘルスケアクリニック院長
https://yoshimaru-womens.com/
金沢大学医学部卒業後、国立病院機構東京医療センター、東京歯科大学市川総合病院に勤務。2012年に東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教に就任。2020年に吉丸女性ヘルスクリニックを開業。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医、日本抗加齢医学会認定抗加齢専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、NR・サプリメントアドバイザー