かゆい虫刺されはなぜ起こる? 応急処置と受診の見極めポイント

かゆい虫刺されはなぜ起こる? 応急処置と受診の見極めポイント

虫刺されは日常的にみられる皮膚の病気ですが、さまざまな虫が存在することから、なかには皮膚から血を吸ってしまうなど、皮膚科での治療が被害を与える虫刺されもあります。虫に刺される機会が増える夏のレジャーシーズン前に虫に刺されたときの応急処置や医療機関での治療が必要なケースを理解しておきましょう。
 

 

虫刺されは流水で冷やすとかゆみ軽減

皮膚炎を起こす原因となる虫にはさまざまなものがあります(表1)。

 

表1 皮膚炎を起こす原因となる主な虫

吸血する虫

蚊、ブユ、アブ、ノミ、トコジラミ、ダニ など

刺す虫

ハチ など

咬む虫

クモ、ムカデ など

 

虫に刺されることで痛みやかゆみの皮膚症状が出ます。痛みが出るのは、ハチなどの虫が刺したり咬んだりすること、ムカデなどが刺したときに皮膚に物質が注入されることが原因です。かゆみは皮膚に注入された物質に対するアレルギー反応で、すぐに症状が出るもの(即時型反応)から遅れて症状が出る(遅延型反応)まであります(表2)。症状の出方、強さは人によって異なります。

 

表2 虫さされによるかゆみの症状の出方

即時型反応

虫に刺された直後からかゆみや赤い湿疹、じんましんなどの症状が出て数時間で治るもの

遅延型反応

虫に刺されたり血を吸われたりした1〜2日後にかゆみや赤い発疹、ブツブツ、水ぶくれなどが出て1週間程度で症状が治まる

 

刺されたときの応急処置

刺される虫の種類や症状の出方の個人差によっても痛みやかゆみの感じ方、程度は異なりますが、刺されたことに気づいたら水道水でよく洗いましょう。清潔にする目的もありますが、刺されたところを冷やすことでかゆみを抑えることもできます。衣服の上からやタオルを巻いた保冷剤を当てるのもかゆみを軽減するのに役立ちます。かゆみが残る場合には、市販薬のかゆみ止めを使ってもよいでしょう。

 

ハチに刺されたら清潔な毛抜きで、毛虫の場合はテープを使って針をとります。こすらないように注意しながら流水で流し、清潔にすることが重要です。

 

皮膚科での治療が必要な虫刺され

虫に刺されたときに、すぐに強い症状が出てくるケースばかりではありません。刺された虫の種類がわかると後日医療機関を受診したときの参考になります。写真などに残しておくのもよいでしょう。

 

また、刺された部位の腫れが治まらない、症状が続くといった場合には、医師の診断、治療が必要になります。治療では塗り薬(ステロイド)を使ったり、症状が強い場合には抗ヒスタミン薬やステロイドの内服薬で治療することもあります。近隣の皮膚科を受診しましょう。

緊急性が高い場合

虫刺されでは、皮膚に注入された物質に対する強いアレルギー反応に注意が必要です。アナフィラキシーと呼ばれる全身のじんましんや腹痛、呼吸困難、意識消失などのアレルギー症状は生命に危険が及ぶことがあります。とくにハチの場合に起こることが多く、なかには刺されて30分以内でアナフィラキシーによるショックが起こる人もいます。また、短い時間に複数箇所刺された場合にも強いアレルギー反応が出ることがあります。次のような症状があれば緊急性が高いため、救急車を要請しましょう(表3)。

 

表3 緊急性が高い症状

・フラフラする

・息が苦しい

・つばを飲み込みにくい

・胸が押される感じ

・呼びかけに応答しない

【出典】東京消防庁:東京版救急受診ガイド※1

 

原因を除去することも重要

自宅の庭などに原因となる虫がいる場合には、新たに刺されるリスクがあります。原因となる虫がいる場所がわかる場合には、駆除しましょう。

 

毛虫は直接触れた自覚がなくても針が刺さって皮膚炎を起こすこともあります。毛虫がいる植物には近寄らないようにし、毛虫が発生する木に殺虫剤を撒布するなどの対策を行います。
 

アレルギー反応が起こる虫刺されを防ぐには

国内では蚊が媒介するウイルス感染症は、日本脳炎を除き、海外からの輸入感染症とされていますが、デング熱は2014年に国内でも感染例が報告されています。初夏から秋にかけて野外での活動が増える時期には、蚊やハチなどの虫に刺されないようにする対策を行うことが重要です。

とくに山や林、キャンプ場など、草木が多い場所には虫が多く発生します。野外で活動をするときにはできるだけ肌の露出を少なくしましょう。長袖、長ズボンの着用、足を覆う靴を履きます。帽子もかぶりましょう。
また、蚊やハチなどは、黒っぽい色、濃い色を好むといわれています。衣服は明るい色を選ぶとよいでしょう。

 

虫除けスプレーの使い方

外出時や屋外での活動時に役立つのが虫除けスプレー(忌避剤)です。市販されている忌避剤に使われている成分にはディート(ジエチルトルアミド)とイカリジンがあります。ともに吸血する虫の行動を阻止する効果があります。

 

ディートは古くから虫除け成分として使われてきたもので、イカリジンは2015年から虫除け成分として使用されています(表3)。ディートのほうがイカリジンよりも多くの種類の虫除け効果があります。

 

表3 虫除けスプレーの特徴

虫除け成分

ディート(ジエチルトルアミド)

イカリジン

効果のある虫

蚊やマダニ、アブ、ブユ、トコジラミ、イエダニなど、多くの害虫

蚊、ブユ、アブ、マダニ、ノミ、トコジラミなど

使用制限

12歳未満の子どもには1日あたりの使用回数制限あり(生後6か月〜2歳未満1日1回/2〜12歳未満で1日1〜3回)

※ディート10%以下の医薬部外品は生後6か月以降に使用可能

ディート30%の医薬品は12歳以降で使用可能

年齢による使用回数の制限はなし

 

虫除けスプレーは、肌の露出がある部分にまんべんなく塗りましょう。

 

自宅周りは蚊の防除を

蚊は小さな水たまりでも水気があれば幼虫が発生して増えていきます。植木鉢の水受けや古いタイヤ、空き缶、バケツ、子どものおもちゃなどを屋外に出している場合には、雨が降った翌日に水を取り除くなど、水たまりをつくらないようにしましょう。

 

初夏から秋にかけてのレジャーシーズンは気温も上昇し、虫が多く発生します。とくに近年は平均気温が高くなっており、虫の発生時期が早まり、期間も長くなっています。外出する際には虫除けスプレーを使用すること、“たかが虫刺され”と思わず、皮膚の腫れや痛み、かゆみが続くときには医療機関で適切な治療を受けましょう。
 

ここがポイント!

・虫刺されによる痛みは虫が刺したり咬んだりすること、刺したときに皮膚に物質が注入されることが原因

・かゆみは皮膚に注入された物質に対するアレルギー反応で、即時型と遅延型がある

・ハチに刺されたときに全身にじんましんや腹痛、呼吸困難、意識消失などのアナフィラキシーが起こることがある

・長袖、長ズボンを着用して肌の露出を避ける、虫除けスプレーを使うなどの予防対策が重要


<引用・参考資料>

※1 東京消防庁:東京版救急受診ガイド

https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/hp-kyuuimuka/guide/main/

(2024年5月15日閲覧)

・日本皮膚科学会:皮膚科Q&A 虫刺され

https://www.dermatol.or.jp/qa/qa16/index.html

(2024年5月15日閲覧)

・厚生労働省:蚊媒介感染症

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164483.html

(2024年5月15日閲覧)

・慶應義塾大学保健管理センター:応急処置の方法

https://www.hcc.keio.ac.jp/ja/health/health/emergency/oukyuusyochi.html

(2024年5月15日閲覧)

・日本防疫殺虫剤協会:ストップ!デング熱 ストップ!ジカ熱 みんなでやろう蚊の防除

http://hiiaj.org/introduction/stopdenngustopujika.pdf

(2024年5月15日閲覧)

・東京都薬剤師会:医薬品管理センター/虫除け剤(ディート)

https://www.toyaku.or.jp/center05/mushiyoke/dakedo.html

(2024年5月15日閲覧)




宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。