マスクをする生活、しない生活に共通する スキントラブルの予防とエイジングケア*

マスクをする生活、しない生活に共通する
スキントラブルの予防とエイジングケア*

*年齢に応じたケア


新型コロナウイルス感染症の流行が始まって以降、日常的にマスクをつける生活が続きました。そこで注目されたのがマスク着用によるスキントラブルです。マスクの素材が肌にこすれることで皮膚炎やマスクのなかが蒸れることによる肌荒れに悩む人も少なくないでしょう。

 

また、これから冬にかけて外気が乾燥しやすくなります。これらの環境は肌にとって非常に過酷なものであり、毎日のケアが重要となります。


「高温多湿」と「乾燥」に共通するスキントラブル

2023年3月までは屋内ではマスクは原則着用とされてきましたが、現在は「個人の主体的な選択を尊重し、個人の判断が基本」※1となりました。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行は続いており、人と人とが密になる場所や屋内ではマスクの着用を続けながら、暑い屋外ではマスクを外すなど、状況に合わせてマスクの着脱を行っている人もいるでしょう。

 

マスクを長時間着用していると、高温多湿の状態になり、マスクを外すと水滴が付着していることもあります。一方でこれからの季節は湿度が下がり、肌の乾燥が気になります。このマスクのなかの「高温多湿」の状態と「乾燥」は、一見正反対の現象に思えますが、肌にとっては似た環境にあります。

皮膚の構造

皮膚には表皮と真皮があります。表皮は表面から角層、顆粒層、有棘層、基底層と大きく4つの層にわかれており、基底層と真皮が接しています。表皮の細胞は40~50日をかけて下の層から上の層に押し出されて生まれ変わります(ターンオーバー)。

 

最後は死んだ細胞が角層まで押し上げられ、垢として自然と剥がれ落ちるのですが、角層には外部から異物が入り込んだり、水分が蒸散して逃げるのを防いだりする重要なバリア機能としての働きがあります。

マスクが肌に及ぼす影響

マスクには不織布が使われており、その主な素材はポリプロピレンというプラスティックの一種です。この素材はおむつや生理用ナプキンなどにも使われる皮膚への刺激の少ないものではありますが、皮膚の表面をこすることで、摩擦による刺激が生じます。


マスクのなかの皮膚は水分によって潤っているように思えますが、摩擦によって傷ついており、マスクの内側の水分が蒸散されるときに表面が傷ついていると、角層の必要な水分まで一緒に蒸散してしまいます(図1)。


図1 バリア機能が正常な肌と壊れた肌


070_img_01

そのため、マスクのなかの皮膚は外部からの刺激を受けやすく、水分が蒸散して乾燥が進むことで、さらに肌はトラブルが起こりやすくなります。

冬の乾燥も原因は同じ?

冬の外気が乾燥した状態は、皮膚表面の水分が奪われやすく、バリア機能が低下して肌の乾燥が進みます。つまり、マスクによる摩擦、冬の乾燥などによるスキントラブルに共通するのはバリア機能の低下ということになります。このバリア機能の低下を防ぐことがスキントラブルを防ぐことにつながります。

見た目印象もアップ毎日のツヤ肌づくり

皮膚のバリア機能が保たれた肌は、トラブルが起こりにくく、見た目印象もアップします。毎日のケアでスキントラブルを防ぐには、正しい洗浄、保湿、保護の3つがポイントになります。

正しい洗浄

洗浄で大切なことは、こすらないことです。洗顔料を細かくしっかり泡立ててやさしく肌をなでるようにして洗いましょう。

 

洗顔料などの洗浄剤の多くには界面活性剤が含まれています。界面活性剤はひとつの分子に水となじむ「親水基」と油になじむ「親油基」を持っているのが特徴です。親油基と結びついた汚れは、親水基が水となじむことで洗い流すことができます(図2)。また、古い角質は自然に垢となって剥がれ落ちるので、力を入れてこすり洗いする必要はありません。過剰な洗浄は皮膚のバリア機能を落としてしまいます。熱い湯で洗い流すと皮脂も失われてしまうため、ぬるま湯で洗い流すようにしましょう。


図2 界面活性剤の洗浄のしくみ


070_img_02

保湿

肌へのダメージを防ぐためのバリア機能を保つうえで大事なのが保湿です。屋内で日常的にマスクをつけている人やつけ外しの機会が多い人、紫外線にあたる機会が多い人は、とくにバリア機能が低下しやすいことを意識して、保湿を心がけるとよいでしょう。

 

角層には、皮脂や角質細胞間脂質、天然保湿因子と呼ばれるものが存在し、バリア機能を保っています。皮脂は皮脂腺から分泌され、汗と混じって皮脂膜を形成しています。また、角質細胞間脂質は角層の角質細胞間を埋める脂のことで、天然保湿因子はアミノ酸などで構成されており、角層の水分保持にかかわっています。角層に含まれる水分とバリア機能とは密接に関係しており、しっかり保湿をすることで、皮膚のバリア機能を保つことが重要です。

保護

保護とは刺激を避けることです。マスクによる摩擦も刺激のひとつ。つけ外しのときもできるだけ肌をこすらないように心がけるとよいでしょう。また、自分の顔の形に合ったマスクを選ぶことも大切です。

エイジングケアは冬に差がつく

年齢とともに皮脂の分泌量が減少するため、加齢とともに乾燥による皮膚のバリア機能の低下が起こりやすくなります。とくに夏場の冷房がきいている環境や冬場の外気が乾燥した屋外ではしっかり保湿をすることを心がけましょう。

 

また、エイジングケアで重要なのは紫外線からの刺激を避けることです。日焼け止めはシーンによって使い分け、長時間屋外にいるときには塗り直しましょう。

 

マスクをしているとつい忘れがちになりますが、マスクは紫外線の防御になりません。肌が露出しているときと同じように紫外線ケアを行うことが大切です。とくに冬場は紫外線ケアを怠りがちな人も少なくありません。紫外線は1年を通して降り注いでいます(図3)。シーンや季節に合わせて日焼け止めを使いわけ、丁寧に紫外線ケアを行うことがシミやシワを防ぐことにつながります。

 

図3 日最大UVインデックス(紫外線の強さを指標化したもの:観測値)の年間推移グラフ※2

070_img_03

【出典】気象庁:紫外線のデータ 日最大UVインデックス(観測値)の年間推移グラフ これまでの観測結果


●は観測値、細実線は1990年から2022年までの累年平均値を表しています。

※データの見直しなどで値が変わることがあります。

ここがポイント!

  • マスクのつけ外しは乾燥や摩擦による刺激でバリア機能が低下する原因になる
  • バリア機能の低下を防ぐためには正しい洗浄、保湿、保護が重要
  • エイジングケアのポイントは1年を通じて紫外線から肌を守ること


引用・参考資料

※1 厚生労働省:マスクの着用について

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kansentaisaku_00001.html(2023年9月15日閲覧)

※2 気象庁:紫外線のデータ 日最大UVインデックス(観測値)の年間推移グラフ これまでの観測結果

https://www.data.jma.go.jp/gmd/env/uvhp/link_daily_uvindex_obs.html(2023年9月15日閲覧)

 

・日本化粧品工業会:やさしい技術解説 肌の汚れを落とす―洗浄料―

https://www.jcia.org/user/public/knowledge/explain/cleanser(2023年9月15日閲覧)

久山倫代(くやま みちよ)

久山倫代
(くやま みちよ)

愛媛大学医学部卒業後、岡山大学病院等勤務を経て、同大学皮膚科助手、川崎病院皮膚科副医長、金光病院皮膚科部長などを歴任。