妊娠・出産時のリスクを軽減!プレコンセプションケアで母子の健康を守る

妊娠・出産時のリスクを軽減!
プレコンセプションケアで母子の健康を守る

妊娠・出産は、母体にも胎児にもさまざまなリスクを伴います。そのリスクを少しでも軽減して健康を維持できるようにするため、近年プレコンセプションケア(妊娠前の健康管理)の重要性が指摘されています。プレコンセプションケアは、妊娠・出産を控える女性やそのパートナーはもちろん、ご家族、友人、職場のみなさんが正しく理解し、実践することが大切です。

年齢とともに不妊治療をしても子を授からない確率が上がってしまう

プレコンセプションケアとは、受胎(conception)の前(pre)に行うケア(care)を意味し、WHO(世界保健機関)では、「妊娠前の女性とカップルに医学的・行動学的・社会的な保健介入を行うこと」と定義しています。これは比較的新しい考え方で、2006年にCDC(米国疾病管理予防センター)が提唱し、2012年からWHOも推奨するようになったものです。


プレコンセプションケアは、もともと「妊娠できる年齢の女性に、妊娠に対する理解や健康づくりをうながし、妊娠関連のアウトカム(結果)を改善すること」を目的とした概念ですが、現在では、妊娠や出産に限らず、若い世代の人たちが将来の病気を予防し、質の高い生活を実現することも重要な目的のひとつとなっています。


プレコンセプションケアでもっとも大切なのは、性別を問わず、妊娠・出産に備える若い世代が主体的に健康管理に取り組めるように意識づけを行い、環境を整えることです。日本では、2015年に国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)がプレコンセプションセンターを開設したり、2021年に政府がプレコンセプションケアを盛り込んだ「成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」を閣議決定したりと、医療機関や行政を中心に、その普及に向けた取り組みが進められています。

低出生体重児の健康リスク

国内でプレコンセプションケアの重要性が強調されるようになった背景には、ライフスタイルの変化などに伴う近年の妊娠・出産状況が大きく関係しています。そもそも、妊娠・出産には適齢期があり、個人差はあるものの、一般的に女性の妊娠適齢期は35歳くらいまでとされています※1、2


体外受精による妊娠率を見ても、35歳をすぎると低下していき、40代以降は不妊治療をしても出産率は1割以下となります※3。また高齢になると、低出生体重児や先天異常をはじめとした胎児のリスク、妊娠合併症による母体のリスクが高くなります。


母体や胎児の健康を守り、安全な出産に臨むためには、妊娠・出産年齢だけでなく、母親の心身の健康やパートナーの健康もとても重要です。さらに、生まれた子どもを育てていくうえで、保護者の健康が大切であることはいうまでもありません。子どもが欲しいと思ったときに、年齢面や健康面で問題を抱えなくてすむように、早い段階からプレコンセプションケアに取り組むことが必要なのです。


近年、注目されている妊娠・出産に関する問題のひとつに、低出生体重児への対応があげられます。低出生体重児とは、出生体重が2,500g未満の出生児をいい、以前は「未熟児」とも呼ばれていました。国内では、1975年に5.1%だった低出生体重児の割合が2010年には9.6%にまで上昇しています。

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厚生労働省:令和2年(2020)人口動態統計(確定数)の概況※4より作成



低出生体重児は早産のケースにみられることがあり、身体が十分に成長していない状態で生まれることが多いため、次のような健康リスクを抱える可能性が高まります。

死亡リスクの増加

生存に必要な器官が未発達の状態で生まれると、出生後に死亡してしまうことがあります。医学の進歩が死亡率減少につながっている一方で、新生児集中治療管理室(NICU)での集中的な管理を行っても2,500g以上で生まれた乳幼児にくらべて死亡リスクは高く、とくに超低出生体重児と呼ばれる1,000g以下の出生児は、そのリスクが高くなることが分かっています※5、6

発達障害のリスク

低出生体重児は、正常な体重で生まれた赤ちゃんにくらべ、脳性麻痺などの運動障害や知的障害を抱える確率が高いといわれています。また、座れるようになる時期が遅くなったり、なかなか話せるようにならなかったりと、成長の過程で影響が現れることもあります※5

生活習慣病リスク

いくつかの調査研究で、母親のおなかのなかにいた期間相当の体格(身長や体重)が小さい子どもは、「将来糖尿病や高血圧などの生活習慣病になるリスクが高い」という報告もあります※5

もちろん、これらのリスクには個人差があります。その後の成育環境が影響することもあるため、長期的に経過を見ていくことが重要です。

将来の“妊活”に備えて今からできること

生まれてくる子どもの健康を守るとともに、妊娠・出産の安全性を高めるためには、若いころからリスクを減らす生活習慣を心がける必要があります。


プレコンセプションケアは、女性だけではなく男性の問題でもあります。パートナー同士が協力して次のような点に気をつけて生活してみましょう。

年齢

高齢出産はあらゆるリスクを高める要因です。また、精子の質も高齢になると低下します。妊娠や出産を望む人や将来的にその可能性がある人は、適正年齢で妊娠・出産できるようにライフプランを立てるとともに、健康の管理に努めましょう。

体重

妊娠前に「やせ」だった人は、子どもが低出生体重児となるリスクがあるといわれています。反対に肥満は妊娠合併症や精子の質の低下などにつながるため、できるだけ適正体重(BMI18.5以上、25.0未満)を維持しましょう。

栄養

若い世代は食事の時間や食事内容が偏りやすくなります。できるだけ決まった時間に食事をとり、炭水化物、タンパク質、ビタミン、ミネラルなどをバランスよく食べるよう心がけましょう。また、妊娠・出産では葉酸というビタミンBが大切になります。ブロッコリーやほうれん草に多く含まれている葉酸は、心臓の病気の予防にも役立つ可能性があることが分かり、注目されている栄養素でもあります。若いうちから不足しないように意識的に摂取しましょう※7

運動

体内の血の巡りをよくし、肥満などを防ぐには、運動習慣をつけることも大切です。ただし、妊活中は激しい運動は控えるようにしましょう。

喫煙・飲酒

喫煙は本人の健康に害があるだけでなく、低出生体重児などのリスクを高めます。受動喫煙でも同様の危険性があるので、本人はもちろん、パートナーも1日も早く禁煙するようにしましょう。また妊娠前は、アルコールもできるだけ控えることが大切です。

ストレス

強いストレスは、排卵の抑制やホルモンバランスの乱れを引き起こし、妊娠の障害となります。また男性では精子をつくる機能や射精機能が低下することもあります。自分なりの発散法を持ち、ストレスを溜め込まないようにしましょう。

ここがポイント!

    ・妊娠前からの健康管理「プレコンセプションケア」が注目されている

  • 妊娠合併症による早産などが低出生体重児を産む要因に
  • 低出生体重児は、将来にわたる健康被害のリスクが高まる
  • 子どもの健康を守るためにも母親とパートナー双方が健康管理に努めることが重要


  • <引用・参考資料>

    ※1 日本産婦人科医会:栗林先生・杉本先生の開業医のための不妊ワンポイントレッスン 1.妊娠適齢年令
    https://www.jaog.or.jp/lecture/1-%e5%a6%8a%e5%a8%a0%e9%81%a9%e9%bd%a2%e5%b9%b4%e4%bb%a4/(2022年5月13日閲覧)

    ※2 Cleary-Goldman J et al, : Impact of maternal age on obstetric outcome. Obstetrics & Gynecology, 105 - Issue 5 Part 1 – p. 983-990, 2005.

    ※3 日本産婦人科学会:ARTデータブック2019年

    https://www.jsog.or.jp/activity/art/2019data_202107.pdf(2022年5月13日閲覧)

    ※4 厚生労働省:令和2年(2020)人口動態統計(確定数)の概況

    https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei20/index.html(2022年5月13日閲覧)

    ※5 みずほ情報総研株式会社:厚生労働省平成30年度子ども・子育て支援推進調査研究事業「小さく産まれた赤ちゃんへの保健指導のあり方に関する調査研究報告書」

    https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000592913.pdf (2022年5月13日閲覧)

    ※6 周産期母子医療センターネットワーク:データベース解析報告

    http://plaza.umin.ac.jp/nrndata/ (2022年5月13日閲覧)

    ※7 健康長寿ネット:葉酸の働きと1日の摂取量

    https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/vitamin-yousan-biotin.html (2022年5月13日閲覧)

    日本産婦人科医会:第147回記者懇談会成育基本法が成立して2年産婦人科はどのように変わるか?「女性の健康支援プレコンセプションケアとは」資料

    https://www.jaog.or.jp/wp/wp-content/uploads/2020/12/e7ac6ca3eae3b81561d1b7bf4ee4ecd2.pdf(2022年5月13日閲覧)

    厚生労働省スマート・ライフ・プロジェクト:健康イベント&コンテンツ「プレコンセプションケア」をみんなの健康の新常識に

    https://www.smartlife.mhlw.go.jp/event/womens_health/2021/lecture2(2022年5月13日閲覧)

    国立成育医療研究センター:プレコンセプションケアセンター

    https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/preconception/(2022年5月13日閲覧)

    埼玉県:思春期からの男女の健康について ~「プレコンセプションケア」を知っていますか?~

    https://www.pref.saitama.lg.jp/a0704/boshi/boshi_pcc.html(2022年5月13日閲覧)

    厚生労働省:プレコンセプションケア等に係る有識者ヒアリング

    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18464.html (2022年5月13日閲覧)

    厚生労働科学研究費補助金事業(女性の健康の包括的支援政策研究事業)「保健・医療・教育機関・産業等における女性の健康支援のための研究」研究班プレコンセプションケアを考える会:男女の健康・次世代の健康を考える「日本のプレコンセプションケアを考える」パネルディスカッション資料

    https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/preconception/pcc_seminar2019-3.pdf (2022年5月13日閲覧)

    吉丸真澄(よしまる ますみ)

    吉丸真澄
    (よしまる ますみ)

    吉丸女性ヘルスケアクリニック院長
    https://yoshimaru-womens.com/
    金沢大学医学部卒業後、国立病院機構東京医療センター、東京歯科大学市川総合病院に勤務。2012年に東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教に就任。2020年に吉丸女性ヘルスクリニックを開業。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医、日本抗加齢医学会認定抗加齢専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、NR・サプリメントアドバイザー